回想十年(下) 吉田茂 –メモです–
考慮を要する選挙の在り方 140頁
新憲法によってわが国のいわゆる民主政治が確立されたが、現在の政治の形態が、果して当初に期待された如きものであるや否や。真に民主政治が確立されるまでは、国民は深き注意を以て、常に政治、政局の推移を監視せねばならぬ。
わが国の選挙の制度を見るに、余りにその種類が多すぎるといわざるを得ない。国会議員はいわずもがな、都道府県の知事、議員、市町村の長及び議員、はては農業委員に至るまで、貧乏なこの国としては、実に多くの選挙が国民の手を煩わしている。最近まではそれに教育委員の選挙が、全国都道府県市町村に亘って行われる制度になっていた。これらが悉く費用がかかる。然もそれが決して軽少でないのみならず、年々増加する恐れさえある。そのために政治のあらゆる段階に人気取りが横行する。それは結局国民の負担となり、政治資金の乱費となる。ひいては政治の腐敗、道義の低下を助長するのである。もちろん、そうかといって、選挙を廃止するわけにはゆかぬ。