茨城県稲敷市 農業(稲作)の大規模化とスマート農業の取り組みについて
目次
【視察先の概要】
稲敷市 人口 37,824人 / 世帯数16,392世帯
利根川東遷(河川改修)により稲敷地域の水害が多発。水害の歴史は羽島市と酷似しています。
【茨城県・稲敷市・関係者】
茨城県:農業経営課 係長 / 技師 / 県南農林事務所 稲敷地域農業改良普及センター地域普及第一課 課長
稲敷市:地域振興部 農政課 課長 / 課長補佐 / 主事
企 業:YAMAGUCHI farm
【視察結果 ① 茨城県担当】
茨城県の事業である「茨城県モデル水稲メガファーム育成支援事業」実施地域として稲敷市が名乗りをあげて農業の成長産業化を目指し、100ha超規模の大規模水稲経営体を短期間で育成することとなった。(2018〜2021年度)
この事業は農地中間管理事業を活用した農地の集積・集約化を実現するため農地貸付に協力した農地所有者に対して「農地貸付協力金」として上限8万円/10aを交付。
また、農地交換に協力する耕作者に対して「農地集約化奨励金」2万円/10aを補助することにより、大規模経営体の育成に向けた地域の合意形成を支援。
さらに、この事業は農地を集積・集約に特化するのではなく効率的な農業経営を実現する省略化作業体系(スマート農業など)の確立に向けICT等先端技術の導入に対する支援も行なっている。補助率1/6(国補事業を活用した場合に県が上乗せ補助)この補助メニューにより稲敷市東地区では2020年度末に107haの集積・集約を実現した。
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【視察結果 ② 稲敷市担当】
「稲敷市スマート農業推進事業 / 農業の未来を創るスマート農業推進事業」を継続的に推進している。本事業は、農作業の効率化や負担軽減のために、ICT機器及びロボット技術の導入にかかる費用に対して、その一部を補助するもの。茨城県の事業を補完する事業でもあると考えます。
また、稲敷市には、耕作放棄地があり、担い手の減少が原因で農地面積が狭い地域や住宅地にある農地が耕作放棄地となっている。しかし、荒廃農地でも再生利用可能な農地に関しては再生させる。また、担い手不足対策として「新規就農者支援事業」を市の事業として推進している。
▶︎稲敷市スマート農業推進事業 / 農業の未来を創るスマート農業推進事業の詳細はこちらをクリック
▼令和5年度稲敷市スマート農業推進事業 申請・交付決定詳細 当初予算:10,000,000円
No. | 受付日 | 申請者 | 最終補助対象事業 | 事業目的 | 見積金額 | 交付額 |
1 | R5.4.3. | 法人 | ドローン AGRAS T30 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 3,242,195 | 842,000 |
2 | R5.4.3. | 個人 | ドローン AGRAS T10 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,860,129 | 512,000 |
3 | R5.4.3. | 個人 | ドローン AGRAS T10 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,860,129 | 512,000 |
4 | R5.4.3. | 個人 | ドローン AGRAS T10 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,656,035 | 450,000 |
5 | R5.4.3. | 法人 | ドローン AGRAS T30 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 3,242,195 | 842,000 |
6 | R5.4.3. | 個人 | ドローン AGRAS T10 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,656,035 | 450,000 |
7 | R5.4.4. | 個人 | ドローン AGRAS T30 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 3,242,195 | 842,000 |
8 | R5.4.4. | 個人 | スマート操縦システム | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,144,000 | 346,000 |
9 | R5.4.18. | 個人 | スマート操縦システム | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,144,000 | 346,000 |
10 | R5.4.18. | 個人 | スマート操縦システム | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 1,144,000 | 346,000 |
11 | R5.4.24. | 個人 | 直進アシスト付 田植機 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 3,534,300 | 990,000 |
12 | R5.6.2. | 個人 | 直進アシスト付 田植機 | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 4,150,000 | 1,000,000 |
13 | R5.6.26. | 個人 | 直進アシストトラクター | 農作業の効率化による 面積の拡大 | 7,563,636 | 1,000,000 |
8,478,000 |
【視察結果 ③ JA稲敷 資料より】
管内農家の現状は農業経営体数が減少傾向。課題としては、高齢化により離農が進み経営体数が減少している一方で作付面積が5ha以上の経営体数は増加。担い手への農地集積が進んでいる。しかし、担い手の引き受け能力にも限界があり、いかに作業の省力化・効率化していくか、また様々な生産資材が高騰するなか、生産コストをどれだけ抑制できるかが大きな課題。
「担い手農業経営研究会」の設立(令和元年7月)
農業経営の安定確立を図り、地域農業の発展と農業所得向上を目指す。
主な取り組みは、研究会を通し担い手との課題解決に向けての意見交換が行われる。その結果、スマート農業・スマート農機の活用方法の周知、活用しやすい環境整備が担い手の課題解決につながると考え、RTK基地局の設置に向けた取り組みが始まった。
補助事業の活用(茨城県スマート農業導入支援事業の活用)
市内21名の生産者と自動操舵装置(29台)+RTK基地局を一体的に整備
RTK基地局:位置情報データにより高精度の測位を実現する技術。JA稲敷本店に設置されたRTK固定基地局は、半径30kmをカバーでき、管内全域で利用が可能。
スマート農業の拡大普及に向けて
JA稲敷ではスマート農業の普及拡大を令和5年度の事業方針として取り組んでいる。
研究会試験圃場にてドローンを活用した効率化・省略化の実証実験 / ドローンライセンス講習会の計画 / ドローンを活用した病害虫防除の事業化
▶︎ 農業いばらきHP:県内JA初となる自動操舵等スマート農業に活用するRTK基地局の設置
【視察結果 ④ YAMAGUCHI farm (株)代表取締役 社長 山口貴広 様】
県事業の水稲メガファーム育成事業に名乗りをあげ3年間で30ha程の経営体を100ha規模に育成。(2018〜2020年で実施)
YAMAGUTI farm独自の取り組み
地域の担い手・関係期間が集まり、農地交換に向けた話し合いを実施。市の協力のもと各担い手の耕作地を色分けした地図を作成。交換シミュレーションを行った。
農地集積・集約が進み経営の変化にも対応。農地が急速に拡大するなか、現状の労力で可能な限り対応。区画拡大による生産性の向上(耕作条件改善活用事業)や直播による省略化(約20%の労力削減)・作期の分散、畦畔除去による区画拡大、スマート農業導入による効率化を実現した。
今後の目標は経営面積を107haから200haに拡大すること。
▶︎ 農業いばらきHP:農地耕作条件改善事業を活用してみませんか
▶︎ 農林水産省HP:農地耕作条件改善事業(令和5年度予算)
【まとめ】
初日の茨城県土浦市では生産から消費までの「フードシステム」の重要性を再認識した。しかし今回、訪れた稲敷市では、全国的な課題となっている「担い手不足を如何に解消していくのか生産効率を上げるのか?」といった対策に重点を置いた視察となった。
県と市、JAや法人は綿密な連携を行い協力体制を築いたうえで、農地の集積・集約、スマート農業へと農業の活性化を成し遂げた。各々が為すべき役割を理解したからこそではないだろうか。この点は羽島市の農業施策に十分生かすことができると確信している。
細かな話にはなるが、スマート農業を推進するにあたり、機材に補助はあるものの、ドローンのライセンス講習が高額(数十万)であり、一農業法人でもすべての従業員にライセンス取得することが困難であるのが現状。また、農地が拡大すればするほど考えなければならないのが「バッテリー容量の向上」。こればかりは技術革新に頼らざるを得ない…。
※そのため「稲敷市スマート農業推進事業」では、バッテリー購入の申請が増加。令和5年度は2個までが対象となっている。